基本的な事項ですが、相続資格の重複は、被相続人(おじいちゃん)の代襲相続人(孫)が被相続人の養子である(例1)、あるいは被相続人の弟妹が被相続人の養子である(例2)、の2つが挙げられます。

(例1)のFは養子と代襲相続人の両方の相続資格を(昭和36年9月18日民事甲第1881号民事局長回答)、(例2)のGは弟と養子の両方の相続資格を取得します。(相続資格の話で、相続分の話ではありません)
以上のことはどの基本書でも記載されていますが、では、(例1)のFが一方の相続資格を放棄をした場合、たとえば養子の資格で放棄をしたとすると、その放棄は他方の代襲相続人としての資格にも及ぶのかが疑問となりましたので、無駄に調べてみました。
まず、(例1)と(例2)の違いに、重複する相続資格の順位が同順位か異順位かということがあります。(例1)は代襲相続人としても養子としても第1順位です。(民法§887)一方、(例2)は弟としては第3順位ですが養子としては第1順位です。(民法§887,§889)
それでは上記のことを前提として、相続資格が重複した場合の放棄について、いくつかの説がありますので、以下簡単に
- 同順位、異順位関係なく、一方の資格でされた放棄は他方にも及ぶ
(昭和32年1月10日民事甲第61号民事局長回答) - 同順位、異順位関係なく、一方の資格でされた放棄は他方には及ばない
- 異順位の場合は、先順位の資格の放棄が後順位の資格にも及ぶ
- 同順位の場合は、一方の資格でされた放棄は他方に及ぶが、異順位の場合は、一方の資格でされた放棄は他方には及ばない
(大審院判昭和15年9月18日,京都地判昭和34年6月16日)
1、2説は順位関係なく一律に考えます。1説なら養子の資格を放棄すれば、当然に(例1)の代襲相続人としての資格にも放棄が及びますし、(例2)の弟としての資格にも及びます。2説ならその逆です。つまり、(例1)(例2)どちらも結果は同じとなります。
3説は(例2)に限ったことですが、養子(第1順位)の資格を放棄すれば、弟(第3順位)の資格にも放棄が及ぶとします。
4説は、同順位なら1説、異順位の場合は2説をとるかたちです。その理由を、
「中間順位の相続人がいる場合や,そうでなくとも順位を異にするに因り共同相続人の員数を異にする場合の存することを考えてみるとたとえ同一人が二つの資格を兼有する場合でも相続の放棄はやはり相続順位(資格)に応じ各別に観察するを相当とするとの見解が正しいといわねばならず,またこれを区別する実益がある」
また、
「同一の被相続人間の相続についても放棄の対象たる相続の内容は順位を異にするより別異のものとみられるから」
とします。例えば「中間順位の相続人がいる場合」とは、(例2)で仮に父(X)が生存していたとすると、Gが相続放棄できるのは第1順位の養子としての資格のみであり、第2順位のXが相続放棄をしない限りは、第3順位の弟としてのGに相続資格は無いので、当然放棄できるはずもない、ということです。(よね?)
他にもいくつかの説があります。
ところで、実務上のことは知る由もありませんが、裁判所の相続放棄申述書の書式を見ると、続柄をチェックするようになっているので、このことは現実的に大した問題では無いのかも知れません。
以上実のない話でした
参考文献
中川善之助,泉久雄(1992)「新板 注釈民法26」有斐閣.
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